牛肉の自社一貫生産
隠岐の島町 有限会社おき精肉店
「かつてのように隠岐の島で肥育牛の生産を復活させたい」と話すのは、隠岐郡隠岐の島町の有限会社おき精肉店の村上聖継代表取締役(66)。
自身が精肉店と焼き肉店を経営し、地元産の和牛肉を「隠岐黒磯牛」の名称で商標登録し県外への売り込みを強化する一方で、自社で育てた肥育牛の販売を計画するなど隠岐の島産和牛肉の普及拡大に力を入れる。
同社は1955年の創業。元家畜商だった村上さんの父親が村上精肉店として開業し、78年には現在の店名に改称した。町内に精肉直営店2店舗と、松江市や東京都内を合わせて4店舗の焼き肉店を経営している。
隠岐地域は古くから公共牧野による肉用牛の生産が盛んな地域だが、肥育農家の数は少なく隠岐で生まれた和牛の多くが島外の肥育農家のもとへ買われて行くのが現状。
島にあったと畜場も閉鎖され、同店での地元産牛肉の取り扱いも激減。近年は本土から取り寄せた精肉の扱いがほとんどとなる中、村上代表は長年の夢でもあった肥育牛の生産から販売までの自社一貫生産に乗り出した。
2017年に島根県の支援事業を利用して10頭程度の飼育能力がある牛舎を新設し、同年11月の隠岐家畜市場で3頭の肥育素牛を導入。その後も同市場で隠岐産牛を買い増しして、今では10頭を飼育する。
飼育は知人の肥育農家に指導役を依頼し、作業は同社の従業員が行っている。従業員の香川拓也さん(30)は「牛を育てることは初めての経験ですが、朝晩の餌やりや掃除など、飼育方法を教えてもらいながら取り組んでいます」と話す。飼料は自給飼料の使用や、複数の農家とともに共同購入するなどコスト低減にも力を入れる。
島根県農林局の船津光代普及員は「定期的に肥育牛の採血と体側の測定をしていますが、全頭とも順調に生育しています。今後もデータを取らせてもらい、優秀な枝肉を作る手助けになれば」と話す。
「最初に導入した牛の出荷を今年の夏に予定しています。最初は小さい規模から始めて、毎月2頭程度を出荷できるところまで規模を拡大したいですね」と村上代表は意気込む。
今後、精肉店と焼き肉店を併せ持つ同社の取り組みが、島内で牛肉の生産から販売まで行う流通の新たなモデルケースとなるか各方面から期待が集まる。