イノシシ肉で地域振興
島根県美郷町
鳥獣害対策に全国でも先駆けて地域住民一丸で取り組んできた美郷町では、イノシシ肉を地域ブランド「おおち山くじら」として活用する一方、産官学民が連携した取り組みが進んでいる。鳥獣害対策のトップランナーとしてだけではなく、山くじらを通じた「美郷バレー構想」を提唱。新たな地域振興のモデルとなるか全国から注目が集まる。
野生鳥獣による被害が全国的に広がる中、同町でも1995年ごろからイノシシによる農作物への被害に悩まされていた。その対策として、同町では有害鳥獣の駆除に農家が立ち上がり、従来の猟友会頼みではない全国でも珍しい農家主体の捕獲班を組織した。2004年には「おおち山くじら生産者組合」を設立。町内で駆除・捕獲したイノシシを、生きたまま処理施設に搬送し迅速に処理することで、夏のイノシシは臭くてまずいという常識を覆し、高品質で臭みがないイノシシ肉を販売する。
山くじらに魅せられ、14年にIターンした森田朱音さん(36)は、17年に「株式会社おおち山くじら」を設立。イノシシの精肉や缶詰などを全国に向けて販売している。「住民の方が暖かく受け入れてくれた。この活動をずっと続けていけたら良いですね」と意気込みを話す。
こうした住民の取り組みを後押しするため、同町では今年から「山くじらブランド推進課」を新設。「土台は住民です。女性や高齢者、Iターン者などの積極的な参加で、単なる鳥獣害対策で終わらせない」と話すのは山くじらブランド推進課の安田亮課長。さらに同町では、鳥獣害に関連した人脈や情報、自然の豊かさに引かれた企業や研究機関が自発的に集まってくる環境を整えた美郷バレーも構想する。
嘉戸隆町長は「米国のシリコンバレーには、大学などの研究機関・ベンチャー精神旺盛な企業・投資家などが自発的に集まり、刺激し合って新しいものが生まれています。おおち山くじらの取り組みを発展させることで、産官学民連携の美郷バレーの創出を目指します」と話す。
山くじらブランドを核に企業・研究機関の誘致を積極的に進め、今年2月には繊維製品製造・販売会社「テザック」、3月には麻布大学と協定を結ぶなど、着実に構想実現に向かっている。「この取り組みをさらに加速し、積極的な情報発信で町の活性化につなげていく」と嘉戸町長は今後の展望を話す。